[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「銀誓館学園」というところから郵便物が届いた。
彼が言った組織だろうかと思ったが、ヴァンパイアだけでなく色々な能力者がいるらしい。彼が封印されている間に、何か事情が変わったのかもしれない。そこで、彼の言うところの、ゴーストを殲滅したり能力を伸ばしたりしているようだ。
両親にはどんな説明がなされたのかはわからない。しかし、親の機微で娘の変化はなんとなく感じていたようだ。
なにか、自分たちとは違うものになってしまった娘。それにどう対応してよいかわからずにいる、両親。その戸惑いも不安も伝わってきた。
でも氷辻はそこから逃げずに両親に言った。
「がんばって入った学校なのに、ごめんなさい。でも、わたし、銀誓館学園に行きたい。そこで、自分に出来ることをしたい。それで」
氷辻はひと呼吸つくと、続けた。
「わたし、そこで友達をつくりたい」
ある平日。
氷辻は野間のクラスをたずねた。
「わたし、転校することになったの」
氷辻は野間に告げた。
「引っ越すの?」
「ううん、そうじゃないけれど…学校は変わることにしたの。でね、その」
少し迷ってから。それでも決めていたことなので、まっすぐに野間を見て言う。
「田川さんの連絡先、教えて欲しいの」
言ってからあわてたように付け足す。
「その、でも、すぐに手紙書けるかどうかわからないから、まだ田川さんには内緒にしておいてねっ」
「喜ぶよ」
「え」
野間は笑って言った。
「李亜、きっとすごく喜ぶ」
「……だったら、わたしも、嬉しい、かな」
そう言って、氷辻も遠慮がちにぎこちなく微笑んだ。
ここで過ごす日々ももう少ない。
教室で。いつものように氷辻は空を見上げた。そこには、相変わらずの青空が広がっている。
でも、
と氷辻は思う。
毎日青い空も、毎日同じように見えても、変化している。
昨日と同じものはない。
同じように見えても、同じ青ではない。
自分も、そうなっていられるだろうか。
今日の自分は、昨日の自分と違っているか。
あの夜から。自分は変わってこれただろうか。
あの夜に荊でついた傷はほんの数日でいつの間にか癒えていた。
そう、どんなに傷ついても、いつか癒える。
たとえば、深い傷がついて跡が残ってしまっても。いつか、それは自分の一部となっているだろう。
まだ、それは少し怖いけれど。
でも、
今度自分を好きになってくれる人がいたら、わたしはその人の力になりたい。
わたしも誰かを好きになって、手を差し出したい。
わたしは自分の弱さを知っている。
でも、それからもう目を逸らさずに立ち向かっていくと、あの夜決めた。
たとえ傷ついても、
それはきっと癒えると、今は信じている。
彼にはもう会えないだろう。
多分、もう会えない。
でももしかして。いつか、遠い未来に会えたとしたら。
彼の役に立つくらいの力を手に入れていたい。
そして、彼の前に立つ時は、恥ずかしくない自分でいたい。
そこへ向かって、歩いていけるだろうか。
ううん。
歩いて、いきたい。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |