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月夜の兎庭園
トミーウォーカーのPBW「シルバーレイン」で遊ぶ一七夜月氷辻・烏兎沼華呼の雑記です。 各内容は、カテゴリーで判断してください。
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烏兎沼華呼の過去話です。
創作小説の形を取っていますが、とてもとてもつたないです。
素人小説が許容できる方だけ、下からどうぞ。


陽だまり幻想 1

 陽だまりの中で夢を見る。

 今はもう、取り戻せない記憶。繋ぐことのできない手。永遠に失ってしまった、自分の中の大切ななにかと、温もり。
 二度と手に入らない幻想を、
 陽だまりの中で夢に見る。

 *    *    *

 もし、その時の記憶を彼女が今も持っているとするならば、
 それは、逃走と疲弊の日々。
 そして、陽だまりの時間と、体の一部を引き千切られるような痛みを伴う別離。

 *    *    *

 早くに前当主を亡くした烏兎沼には、新しい当主が必要だった。
 何の因果か呪いか。烏兎沼の当主の候補になる者、つまりその時代の長男に当たる人間は大抵、短命か病弱であった。
 その時の烏兎沼の長男に当たる人間も、脆弱な肉体と優しすぎる精神を持っていた。生まれた時からの時間をほとんどを床で過ごすような彼にその家を継ぐことは出来ないと判断され、次男が継ぐこととなった。
 
 その影で、長男であった彼は遠縁の少女と恋に落ちていた。
 烏兎沼の血がわずかに繋がってはいるものの、その血筋はあまりに細すぎて。少女も烏兎沼の本家で使用人として働いていたくらいの繋がり。
 彼はその烏兎沼の血を疎んじてはいなかったが、それが鎖になることは重々分かっていた。
 そして、自分の生がそう長くないことも。
 だから、少女が子を成したと知った時、ここから遠く離れなさいと言った。
 子供が男の子なら。「能力者」であれば。必ず少女から引き離されるであろうと。
 少女は最初、彼と離れることをひどく嫌がったが、最終的には承諾した。

 そして、彼がこの世から消えたことを知るのは、遠い地にて。
 双子の赤ん坊を抱きながら。

 *    *    *

「貴方たちのお父さんは、とてもきれいな人だったのよ」
 彼女は二人にいつもそう話していた。とても嬉しそうに。
 それが、二人の唯一の「お父さん」の知識。

 双子とまだ若いその母は、いつも一箇所に長く留まらず、土地を渡り歩いた。
 そんな暮らしが豊かであるわけがなく、三人で身を寄せ合うようにひっそりと暮らしていた。
 双子の名前は華呼と嵐(らん)。二卵性であるものの、同じように長く髪を伸ばして、後ろから見たりすると…正面から見ても一見見分けはつかない。
 一箇所に長く留まらないので友達ができない代わりに、いつも二人で過ごしていた。
 もうじき四歳になるくらいの年頃。でも、母は毎日仕事に出なければならず、二人は母が帰るまで二人きりで過ごした。子供だけで過ごすには世界は危険すぎたが、それでも二人はなんとかやっていた。二人だから、なんとかやっていけた。
 双子であるが、一応華呼がお姉さん。でも、嵐の方がどちらかといえば活発で頭も良かったので、華呼より語彙が広い。だから、それでもお姉さんぶって前に出る華呼が言葉に詰まると、後ろで補足したりする。 華呼は時々それがおもしろくないが、彼女は優しい性質を持っているので、喧嘩を吹っかけたりすることもなかった。
 本当は母に、あまり外に出てはいけないと言われていたけれど。たいてい二人は手を繋いで、明るいうちだけ外に出かけた。
 それは純度の高い、二人だけの時間。

 遊び場はいつも、近所の公園だった。場所を広く取っていて、遊具もいくつかある。他にも近所には、川辺があったり空き地があったりしたが、子供だけでは危険だろうという判断のもと(判断を下していたのはいつも嵐だ)、ほとんど近づかなかった。
 平日の昼間は、あまり人がいない。
 赤ん坊を連れた母親が何人かかたまっているくらいだ。同じ年頃の子供は普通、幼稚園や保育園に通っている時間だった。
 温かい日差しの中。華呼はベンチで、持ってきた絵本を膝の上で広げていた。そうそう新しい物も手に入らないし、引越しの度に持ち歩けるものも限られるから、すでに何度も見ている本。「不思議の国のアリス」。絵本にしては厚めだが、どのページにも挿絵があって楽しい。それを隣から嵐が覗き込んでいた。
 嵐の方が字が読めるので、何度も華呼は思い出せないひらがなを指さして、嵐の方を見る。すると嵐はあっさりとそれを読み上げた。
 花の季節。陽射しがやさしくて、 世界をきらきらとさせている。
 ふいに華呼が小さく息をついて、顔を上げた。
「ランのほうが、たくさん字をしっているね」
 少しつまらなそうに、拗ねたように言う。その顔を傍で覗き込みながら嵐は言う。
「でも、ハナちゃんのほうが物のなまえはよくしっているよ」
「うん。そういうのは、一度おぼえたらわすれないの」
「それに、ハナちゃんのほうがやさしいし」
「……そんなこと、ないよ」
 それに、そんなことは何の役にもたたない。というようなことを彼女は思ったが、それを言葉にするのはまだ難しかった。そのかわりになんとなく、絵本を抱えてぼうっと空を見上げる。丁度木がベンチの上を覆っているので、空の色は部分的にしか見えない。
 ただ、花が舞っている。
 ふわりと。その季節の終わりに向けて。木に咲いていた花が舞う。
「……いつまで、にげるのかな」
 同じようにそれを見上げながら、ふいに嵐が言った。
「にげる?」
 華呼が不思議そうにつぶやいて、嵐の方を見て首をかしげる。
「にげてるでしょう。おかあさん」
「にげてるの?」
「うん」
「だれから?」
「さあ。……おとうさん、かな」
 ぽつりとつぶやいてから、嵐は、華呼とおそろいの自分の緑のチェックのスカートを引っ張ってみた。
「こんな格好も、いつまですればいいんだろう」
「こんなって、きらいなの?」
「きらいっていうか、」
 嵐は少し肩を落として言った。
「…ふつう、おとこのこはスカートはかないでしょう」
 言われて、華呼は目を丸くする。
「そうなの?」
「そうなの! ハナちゃんはそういうところ、わからないんだよね」
 言われて、華呼は少しむっとしたように口元を曲げる。
「おねえちゃん、だよっ」
「おねえちゃん。…ふたごはいっしょに生まれてきたから、別にハナちゃんでもいいとおもうんだけど」
「でも、わたしのほうがおねえちゃんだよっ」
 言い張る華呼に嵐はとりあえず「そうだね」とうなづいておいた。

 母は逃げていた。
 それはもはや、脅迫概念に近い逃走。烏兎沼が本当に追って来ているのかどうかもわからない。
 ただ、子供達をとられるかもしれないという恐怖が、彼女を捕らえていた。彼が死んだと聞いた日から。
 男の子は烏兎沼に取られると思い、嵐には女の子の格好をさせていた。まだ幼いので、そうしてても、周囲に男の子と思われることもなかった。
 そんな逃走の日々。しかも、追跡者は果たして本当に存在するのかどうかもわからない。
 ただ、彼と自分の間にあった感情の証を失いたくない一心で、逃げ続ける。
 しかしそれは確実に彼女を疲弊させていた。
 彼女と、二人の幼子を、疲弊させていた。

 そろそろお昼になる。一度家に帰らなければ。
 嵐はベンチから飛び降りると、華呼に手を差し出す。
「ハナちゃん」
「おねえちゃん!」
 言って、華呼はその手を借りてベンチから飛び降りた。手を貸しながら嵐は言う。
「…おねえちゃんって、もっとしっかりしているものなんだよ」
 しっかりの意味がよくわからなかったが、華呼は一瞬言葉に詰まった後、小さく言い返した。
「…しっかり…するもん…」
 その様子に、嵐は笑った。
「まあ、いいよ。きっと、わたし、じゃなくて」
 嵐は、そっとあたりを伺ってから声を落として言った。
「ぼくが。おねえちゃんのこと、まもるから、ねっ」
 一瞬、自分の方がお姉さんなのに。と思った。
 …でも、それ以上に、それは嬉しい言葉のような気がした。だから、
「…うんっ」
 彼女は笑ってうなづく。そんな姉に、嵐はつないだ手に力を込める。
「じゃあ、帰ろうっ」
 二人は顔を見合わせて、にっこり笑う。

 夕方になれば、二人はいつもきちんと家にいて帰ってくる母を待っていた。
「ただいま」
 いつも、疲れた笑顔で帰ってくる母を二人は戸口まで行って迎える。細く、華奢で、儚げな風貌の彼女はいつも必ず嵐から抱きしめ、その顔を覗き込む。
 とても愛しげに。
 そして、「ハナちゃんもただいま」と華呼を抱きしめる。
 笑顔で迎える華呼には、そこに何かの差を幼心に感じていた。

 *    *    *

「おかあさんって、わたしよりランのほうがすきなんだ」
 いつもの公園で、華呼は言った。
「え、おなじだよ、そんなの」
 驚いたように嵐は言う。
「ちがう、よ」
「なんで」
「なんでって…」
 きっと、嵐はお父さんに似ているのだ。母が並々ならぬ感情を持っている相手。だからあんなに愛しげな顔で彼を見つめる目も、抱きしめる手も、とてつもなく優しい。華呼を愛していないわけではないだろうが、嵐に対する感情はあまりに違う。
 しかし、それを上手く言葉にして伝えることはできなかった。
 華呼はただうつむく。
 幼心に感じていることはたくさんあった。
 母が、疲弊していることも。
 その逃走の日々が、母を疲れさせ、そして自分たちも恐ろしく消耗させていることも。 
 しかし、それを止める術はわからない。
 そして、その不安を打ち明ける言葉をまだ持っていない。
 ただうつむく。
 唯一感情を共用できる相手にも、何かを伝えることが上手くできない。それがもどかしくて華呼はうつむいていた。どうしてわたしは嵐のように、上手く言葉を紡げないのだろう。
「ハナ…お姉ちゃん」
 ふいに、嵐はベンチから飛び降りると華呼の正面から彼女の手を握った。
「ここでちょっとまっててね。はい、本をみてて」
 そう言って、いつも抱えている本を渡す。
「なんで?」
 続いてベンチを飛び降りようとする華呼を押しとどめて、嵐は本を押し付ける。
「すぐくるから。まっててね。どっかいっちゃだめだよ。しらないひとについていかないでねっ」
 言って、嵐は走って公園を出て行く。一瞬華呼は途方に暮れたものの、嵐があれだけ言うのだからすぐ戻ってくるだろうと思い直す。
 それでも、一人になってしまった不安はどこか拭い去れなかった。
 だから。
「鴫谷(しぎたに)、嵐さん。華呼さんかな」
 ぎこちなく本を捲っている時に、生まれて初めて「さん」付けで名前を呼ばれ、心臓が止まる程ぎょっとした。
 顔を上げると、知らない男の人が立っていた。はたから見ると、そこそこ整った風貌と高身長という印象を受けるだろう。きちんとした身なり。育ちの良い立ち振る舞い。
 しかし、華呼にとってはただ「知らない人」でしかなかった。
 抱えた本をぎゅっと握り締める。
 彼は身をかがめて華呼の顔を覗き込んできた。
「ああ、やっぱり兄さんに似ているね」
「…………だれ」
「でも、顔色が良くないし…栄養状況も良いとは言えないな。健康なはずなのに、一樹の細さとそう変わらない」
 華呼の問いに答えず、彼は続ける。華呼は動くことも出来ず、その場所に座って彼の視線を受け止めるしかない。
「で、どっちだい? 嵐さん? 華呼さん?」
「………しらないひとに、なまえをいっちゃいけないから」
「ああ、そうか。のばらは躾はいいな」
 しばらく彼は考えるように視線をそらしたが、やがてもう一度彼女を見た。
「私は、君たちのお父さんの弟でね」
 華呼はよく意味がわからず首を小さく傾げる。しかし構わず彼は続けた。
「嵐さんか華呼さんに、家の子になって欲しいんだ」
「…どうしてっ」
 その、襲い掛かって来た漠然とした不安に、華呼は声を荒げた。しかし、そんな小さな子の声には、彼はまったく動じることなく。
「家を継ぐ人間が欲しいんだ。能力者で、烏兎沼の血の濃い人間じゃないといけない。家の一樹はそう長くないらしい」
 そこで彼はわずかに眉をひそめた。華呼には言われていることがさっぱりわからない。
「どちらかが来れば、きちんとした生活をさせてあげられるよ。その、食べ物や着るものに困らないようになるし、安心して眠ることも出来る。もちろん、もう一人と君たちのお母さんにも十分な援助を…同じように、きちんとご飯を食べて不安のない生活を送れるように保障しよう」
 なんとか、子供に分かるように話そうとしているのが見てとれたが、華呼には時々難しい単語が入っていて、理解するのに時間がかかった。
 でも、多分、つまり。
 …どちらかが彼と行けば、もう母は逃げなくて良いということなのだろう。
 あんなに疲れはてた毎日を送らなくてすむということなのだ。
 どちらかが行けば。
 ……わたしが行くんだ。
 ふいに華呼は思った。
 だって、お母さんは嵐の方が好きだもの。嵐の方が必要なんだもの。
 そうすれば、お母さんも、嵐も、楽しく過ごせるのだ。
 だけど。
 華呼はおろおろとうつむいた。
 そんな恐ろしいことは、とても口には出せないし、出したくなかった。
 と、ふいに彼は立ち上がった。華呼が彼を見上げると、彼は小さくうなづいて言った。
「また来るよ。お母さんと相談して」
 だけど。
 そんなこと母に相談できるわけがないということも、子供ながらに悟っている。
 ただうつむいて。
 彼が目の前からいなくなるのを待っていた。
 夢か何かだったらいいのに。
 わたしじゃなくて、嵐が話しを聞いてくれればよかったのに。
 でも、もうわたしが聞いてしまった。
 嵐じゃなくて。
 抱えていた本に目を落とす。いつもと同じ本なのに、なんだかまるで違うものに見えた。 不思議の国のアリス。不思議の国。
 今がそうであるみたいだ。不思議の…知らない国。
 あたりの風景も。世界がまるごと。彼と話しをする前と違うものに見えてきた。別の世界に迷い込んでしまったかのように。
 でも、そうでないことも、彼女はちゃんと分かっている。嵐ほど多弁ではないけれど、彼女も研ぎ澄まされた思考能力はもっていた。だから、いつも深く考えている。今も。
 だから分かる。
 まだ、その言葉は知らないけれど。それは「現実」。
 どうしよう。…どうしよう。
 ふいに、うつむく華呼の目の前に花の束が差し出された。
 花屋などで売っている、綺麗なものではないけれど。野に咲く、地味だけれども優しく可愛らしい花の束。
「はい。ハナちゃん、げんきだしてっ」
 いつの間にか、目の前には嵐が戻って来ていた。手にたくさんの花を摘んで。
「…どこいってたの」
「川のとこ。川のほうまでいかなかったから大丈夫だよっ。ほら、ハナちゃん、お花すきでしょう。げんきだしてっ」
 華呼はおずおずとその花を受け取る。
「おかあさん、ちゃんとハナちゃんのこと、すきだよ」
「……うん」
「だから、それでいいよね。もしだめなら、そのぶん、わたし…ぼくが、ハナちゃんのことすきになるから、ねっ」
「ラン」
 華呼は花に顔をうずめるほどにうつむいて、小さな声で、自分に誰よりも近い弟の名を呼ぶ。
「わたしもすき。ランも、おかあさんも」
「うん、知っているよ」
 嵐は笑って手を差し出す。
「帰ろうか」
 
 華呼は知っている。
 母が疲れてしまっていることも。時々、夜中に嵐の寝顔を見て泣いていることも。
 他の子のように幼稚園や保育園に行けていないことも。生活が厳しく、母がまともに食べずに自分たちに食事させていることも。嵐が女の子の格好をするのが嫌なことも。自分たちが逃走の日々に疲れ果てていることも。いつまたここから去らねばならない不安に、嫌気がさしていることも。でも、母を思ってそれを決して表には出さないことも。
 母には、自分より嵐の方が必要だということも。
 それは、全てきちんと思考したわけではないけれど。華呼はそれを感じていた。
 だから。

 だから、翌日。



 つづく

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