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月夜の兎庭園
トミーウォーカーのPBW「シルバーレイン」で遊ぶ一七夜月氷辻・烏兎沼華呼の雑記です。 各内容は、カテゴリーで判断してください。
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(注)烏兎沼・華呼の設定話1話です。

創作小説の形をとっていますが、とてもとてもつたないです。
素人小説を許容できる方だけ、続きをどうぞ。



「凍える夢見 1」


「妹」の記憶がある。

 まだ小さいわたしの後を追ってきて、その手をつかむ。
 わたしと同じくらい小さい。髪も目の色も同じ幼女。
 ――おいていかないで、お姉ちゃん。
 「妹」は言う。

 不思議なことに、「妹」の記憶があるのはわたしだけだ。
 兄も母も、そんな存在はないという。
 では、これはわたしの記憶ではなく、妄想なのだろうか。
 それは今でもときおり、幻影となってあらわれる。
 「いかないで」
 「わたしをおいていくの」

 「自分だけ、しあわせになるの」

 ねえ、
 あなたは、だれ?

 *     *      *

 自縛霊は、自分のテリトリーから出られぬように鎖が付けられている。
 ならば、 わたしにとってはこの「烏兎沼華呼」という名前が、鎖なのかもしれない。
 

 襖をノックすると、もそもそとした軽くて気の抜けた手ごたえと音がした。誰でも簡単に開けられる、ドア。鍵のない日本家屋の和室というのは、恐ろしく無用心だ。家の中とはいえ、ここは烏兎沼本家。誰かがよからぬことを考えないとも限らない。
 なのに、この様式にこだわり続ける両親を、少し滑稽に思わなくもない。決して口には出せないが。
「兄さん、華呼です。入っていいですか?」
「いいよ、どうぞ」
 穏やかな声が返る。それを聞いてから、華呼は襖を開けた。
 兄が寝るためだけの和室は、無駄に広い。その、二十畳ほどの部屋の真ん中には布団が敷いてあり、他の物は殆ど何もない。布団の近くに水差しとコップのあるお盆と、本が積んであるくらい。
 布団には兄の一樹が臥せっていた。軽い風邪をひいたという。
 もうずいぶんましになったとはいえ、一度は「十歳にもなれない」と医者に言われたのだ。軽いと言われ、本人が平気だと言っても周りの者が心配して布団に押し込んだのだろう。
 かくいう華呼も過剰に心配する一人だ。いや、他の誰よりも心配をする。
「大丈夫ですか」
 華呼が襖を閉めながら問い、一樹は起き上がって上着を羽織った。
「大丈夫。本当、たいしたことない風邪なんだよ。みんな大げさだから」
 笑う一樹に、華呼は表情を曇らせる。
「そういって、前は肺炎になりかけました」
「あれはたまたま運が悪かったから」
「違います。不養生するからです。ちゃんと養生してください」
「はいはい」
 一樹はやわらかな笑みで軽い返事をする。本当にそう思っているのか、はなはだ疑問だ。彼のこういう態度が周りを心配させるのだろうが、本人はこのような物言いをやめない。聡明な彼が、周りを気持ちを汲み取れないわけないと思うのだが。
 兄は少しだけ、意地が悪い。と思わなくもない…。
 華呼は彼の様子を伺うように首を傾げる。
「少しお話ししても大丈夫ですか?」
「本当、大丈夫だよ。心配しているの?それとも遠慮?どっちも必要ないと思うけど」
「……そう、ですか?」
 華呼つぶやくように返事をし、彼の傍らに座った。そして、手をついて一礼する。
「お久しぶりです」
「そういう固いこと、しなくていいってば」
「でも、一応」
「それに立場は華呼の方が上だし」
「そういう言い方、…嫌です」
 ふっと、華呼の表情がかげる。それに気づいて、一樹は安心させるように笑った。手を伸ばして、彼女の頭をぽんぽんと軽くたたくように撫でた。
「うん、そうだったね。ごめん。ああ、学校の話聞かせてよ。華呼が学校でどんなか知りたいな」
「そ、そんな面白い話しもありませんけど」
 言いながら、何かあったかなと、真面目な顔で考えこむ。その様子に一樹は小さく笑った。
「僕は学校自体新鮮だから、どんな話しでもおもしろいよ。それに、華呼は今の学校の話しをするとき、綺麗に笑うようになった」
「え、」
 不意を突かれた言葉に、華呼はとっさに反応できず、困ったように黙り込む。
「昔はこう…瀕死のアヒルみたいに、息も絶え絶えに笑ってたみたいだったし。ずいぶんましになったよね」
「なんですかそれ。ひどい」
 むっと口元を曲げるようにして怒った顔をしてみせたが、一樹はやわらかいまま続けた。
「きれいな顔をしているのに、勿体ないということだよ」
「え、えっと…」
 あわてたように、華呼は結社やクラスでのエピソードをいくつか話してみた。そんな、学校の話題を明るく話せるようになったのは、ごくごく最近の…銀誓館学園に入ってからだ。
 ようやく兄を安心させる話題を作れるようになったことに、華呼も安堵していた。
「…好きな人はできた?」
 話の合間を見つけて、一樹が問う。
「はい」
 ほんの少しだけ考えて、華呼はうなずいた。その返答にわずかに一樹はたじろいだように見えた。
「え、本当に? どんな人? 両思い?」
 問われて、その意味に気づき、華呼はばたばたと手を振り、首も横に振った。
「そ、そういう意味ではありませんっ。お友達のことですよ、お友達っ。何人かの方のことをまとめて言いましたっ。女の方や小さい子もいますっ」
「男の子も?」
「お、お友達、ですっ」
「まあ、いいか」
 そういって、一樹は軽く天井を仰いだ。
「昔は男の子どころか、女の子の友達もいなかった子だ。それは輝かしい歩みだと思うよ」
「オーバーなんですから」
 華呼はひっそりと笑う。その、少し淋しそうな笑みに当の本人は自覚がなく。兄は、妹がそんな風に笑うのは、もはやこの「家」の中だけだと知っている。
「華呼は、元気になったね」
 ふいに一樹が言った。
「元気、ですか」
「うん。昔はもっとしょんぼりしてたから。でも、そういう変化は悪くないと思うよ」
 そう言って華呼の目を覗き込む。
「大事な人は、たくさん作るといい」
「…兄さんは、変わりましたか」
 華呼はそこから目をそらさずに言った。どこか、表情が硬い。
「考え方、変わってくれましたか?」
 なに、とは言わない。
 けれど、それは兄妹の間で確認の必要のない事項だ。
 あの時の。一樹が失敗をした、あの話。
「……変わっているよ」
「本当に?」
 一瞬だけ、その辛い記憶を思い出したように、華呼の表情がゆがむ。泣き出しそうな、怯えているような。でもそれはすぐに、消え去り。彼女は真顔で兄を見返した。
「生きようって、思ってくれていますか?」
「もちろん。というか、今は放っておかれても、簡単に死なないよ」
「もし、兄さんがまだ『死んでもいいや』とか思っていたら…」
「思わない」
 きっぱりと一樹は言った。たとえ誤解でも、彼女にそうと思わせるわけにはいかない。
 華呼は少し首をかしげるようにして、微笑んだ。
「思っていたら。…それについてだけは、わたし、考え変えていませんよ」
 ふわりと。彼女は優しい口調で言った。微笑む彼女は、他にどんな言葉も許さないような迫力があった。それに圧倒されずに、一樹も答える。
「思わないよ。可愛い妹を置いて、どこかには行けない」
「なら、いいんです」
 そう言って華呼は立ち上がった。
「あまり無理もさせられませんし、行きますね。皆さんにご挨拶して、学校に戻ります」
「そう。そのときは、いちいちこちらに顔を出さなくてもいいからね」
「わかりました」
「ねえ、華呼」
 きびすを返そうとする華呼を、一樹は呼び止めた。さらりとした長い髪を翻して、華呼は振り返る。
 前に別れた時よりも伸びた髪。身長も、伸びたかもしれない。何よりその雰囲気が、前よりずっとやわらかくなった。彼女はどんどん変化していく。
「華呼は、いいんだよ」
「何がですか」
「僕を、置いていっても」
 ほんの少しだけ、華呼の瞳が不安げに揺れる。
「華呼はここを出ても。今日家を出て、二度と帰らなくても。僕は責めないし、その方がいいとさえ思っているよ」  そう、ですね。
 小さな声で、華呼はやっとそう答える。そんな兄の考えはずっと知っていた。でも、だからと言って、それを安易に肯定できない。
「それでは、また」
「うん」
 華呼はふすまに手をかけ、それを開く。
「…ごめんね」
 小さな声が、彼女の背中ごしにこぼれた。けれど彼女は聞こえなかったことにして、兄の部屋を出た。
 
 彼女は出て行かない。
 華呼が出て行った襖を見つめたまま、それを一樹は確信していた。
 自分をこの家においてはいくまい。
 自分と言う存在が、彼女をこの家に縛り付けている。
 本当は、もっと自由になってもいいはずなのに。
 そういう生き方を許されているはずなのに。
「……ごめんね」
 その言葉が彼女の心に響かないことが、彼にはわかっている。そしてそれが、自分の自己満足で、エゴであることもわかっている。それでもそう告げずにはいられなかった。
 開放されてほしいという想いに嘘はない。
 しかし、それは本当に彼女の幸せか。自分の罪悪感から逃れようとしているだけではないか。
 ……一樹は冷え込む部屋で、囁くような息をついた。

 つづく

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一七夜月氷辻・烏兎沼華呼
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非公開
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 ここで使われているイラストは、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。 イラストの使用権は作品を発注したお客様に、著作権はイラストを描かれた絵師に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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