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(SSです)
…悩みは、尽きない。
「えっと、華呼?その問題だったら…」
「大丈夫です!自分で解けますからっ」
ふいに蒼刃くんに言われて、とっさにそう答えた。
ああ、またぼんやりしてしまった。
「えっとね、華呼ちゃん。そこは…」
「あの、本当に大丈夫ですからっ。自分で解けますのでっ」
後月先輩の申し出も断って、わたしはまた問題集に向かう。
…ものの、心は違う場所へ行っている。
今日は、後月先輩にテスト前の勉強を教えてもらっている。
もともと後月先輩が、結社「空き和室」の後輩達に勉強を教えるつもりでいたようで、今日はわたしと蒼刃くんがこうして教わっている。
とりあえず、苦手の数学の問題集を広げている。
いるのだが。
問題を解きつつ、半分上の空なので進みは物凄く遅い。
やっぱり、蒼刃くんには数ヶ月だけだが「お姉ちゃん」のプライドがあるせいか、なんとなく負けたくないな、と思っていて。彼に教わるのはなんとなく、悔しい。
とか、いう想いもあったのだけど。
それどころじゃなくて。
いや、むしろテスト期間中に悩んでいる場合ではない、が正しいかっ。
「…うぅー」
つい小さく唸ってしまう。
数学の問題集を見つめているものの、内容はまったく頭に入っていない。
「…あのさ、華呼」
蒼刃くんが再び声をかけてくれる。
「…でしょうか」
ぽつんと、口からそれが漏れた。
「え?」
そうしたら、もう留めてはおけなかった。
「恋人に恋人らしい態度が取れないって、もしかしてわたし付き合うとか向いてないんでしょうかっ?」
ここ最近の悩みごとをつい口にする。
「って、そっちで悩んでたのか!?」
「…春だねっ。可愛いなぁ」
二人のそれぞれの反応はさておき。
自分としては何を思い返しても、反省材料しか出てこない。
相手に対して、言葉も態度も全然足りてない。
恥ずかしいのか、怖いのか。
そっと息をつく。
と、どこか笑いを含んだ表情で蒼刃くんが言った。
「…まぁ、華呼はまだ付き合い始めたばかりだしな。
俺もこういうことはよくわからないけどさ。
そのうち自然にそういう感じになるんじゃないかな。
…大丈夫。
玖珂守は華呼が好きで、華呼も玖珂守の事ちゃんと想ってる。
大事なのは、お互いがお互いを想いあう気持ちだろう?」
それが想っているだけでは駄目なのですよっ。
という反論はとりあえず胸の内にだけ仕舞っておいて。
わたしはしばし蒼刃くんを見つめたが、ため息をついた。
「…蒼刃くんは恥ずかしい台詞もさらっと言える精神力を持っていていいなぁ」
瞬間、何故か蒼刃くんが咳き込む。
「いや、俺がいつ恥ずかしい台詞なんか言ったんだよ…!?」
「しょっちゅう言っているじゃないですか」
「…自覚がないとかさすが本物だね、蒼刃くん!」
「後月さんまで意味不明なことを言わないでくれ!?あとしょっちゅうってなんだよ!?」
彼と知り合ってからの色々を思い出してみる。
肩を落とし、机にうつむく。
「わたし、蒼刃くんみたいに慣れてませんから…」
ああ、いけない。なんだか落ち込んでくるなぁ。
「だからおかしな誤解をしたままで落ち込まないでくれって…!!」
「…蒼刃君って恋愛慣れしてるんだ。それは知らなかった」
「って、だから違う…?!」
蒼刃くんが何か一生懸命言っていたが、
とりあえずわたしは気持ちが浮上するまで、その言葉は全て頭上を素通りして行った…。
ともあれ。
なんとかそちらの問題は先送りすることにして(逃げてませんよっ)…まずは目前のテストに集中しなければならない。
成績が落ちたら、お母様からお叱りを受けてしまう。…家にはあんまり帰りたくない。最近は特に、本当…。
というわけで、お勉強会再開。
再び問題集に向かう雰囲気でなくなってしまったので、実技の勉強をすることに。今回はこれらのせいですることが多くなっているのだ。
と、後月先輩が嬉しそうに言った。
「じゃあ、音楽は私が教えてあげるね。え、拒否権?ありません」
「いや、別に拒否するつもりは…」
後月先輩の言葉に蒼刃くんが苦笑で答える。わたしも異論はない。
本格的に音楽をやっている後月先輩に教えてもらえるというのは、為になるし、貴重だと想う。
実際、後月先輩の教え方はとても丁寧でわかりやすかった。分からないことがあると、理解できるまで説明してくれるし、とても細かいところまで教えてくれる。
夢中になって話を聞いていると、
「後月さん。そろそろ時間も遅いし…」
ふいに蒼刃くんが言った。
言われて気づいた。もうかなり遅い時間だ。残念だけどここまでかな。後月先輩のお手をいつまでも煩わすわけにもいかない。
わたしが片付けようとすると、
「やだな蒼刃君、私を誰だと思ってるの?」
後月先輩が満面の笑みで言った。
何故か、蒼刃くんがたじろぐ。
「?」
わたしはよくわからなくて、二人の顔を交互に見る。
「えっ、と…」
「もちろん、まだまだ続行だよ。
範囲が終わるまでは 何 が あ っ て も 帰さないから」
笑顔は柔らかいものの、きっぱりと後月先輩は宣言した。
…それはすごいなぁ。
「後月先輩って、後輩の面倒見良くて熱心で、親切ですよねっ」
わたしが言うと、蒼刃くんは信じられないものを見るかのようにわたしを見た。
……どういう意味でしょう…。
ものすごく何かを言いたげだったけど、結局彼は何も言わずに先輩の講座を受けることにしたらしい。その肩はなんだかとてつもなく疲れているように見えたけれど。
…気のせいかな?
その後、後月先輩の音楽講座は夜が明けるまで続きました。
うーん、すごい情熱だなぁ。
ちょっと朝日がまぶしい、かも。
外へ出て、目を細める。
早く帰って、学校に行かないと。
「後月先輩って、良い先輩ですよねっ」
わたしは隣を歩く蒼刃くんに言った。
「あぁ、うん、そうだよな…」
なんだか曖昧な返事が来る。
さすがに、疲れているのだろうか。
でも、わたしは続けておいた。
「わたしも、あんな先輩になれたらいいな」
「えっと、うん、…頑張れよ」
気のせいか、蒼刃くんの言葉にはあまり心がこもってなかった。
…うう。どうせ無理だと思っているんでしょうけど。
とりあえずは、
今日のテストと……
…色々を…
…頑張ろうっとっ。
***************
えっと、蒼刃くんと後月先輩とコラボさせてもらいました。
同じ出来事が、蒼刃くんと後月先輩の視点でお二人のブログで読めます。
よろしければ、そちらも是非。
違う角度から、この出来事が見えますよ。
誘ってくださった蒼刃くん、一緒してくれた後月先輩、ありがとうございました。
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