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「えっと、兄さん」
電話の向こうに、声をかける。
切る間際の電話。
でも、何を言いたかったわけではない。
いや、言えない言葉はたくさん。いつだって、胸のうちに溜め込んでいる。
言わないけど。
「なに」
優しい声が返る。
言わないけれど。困らせるから。
「えっと、無理、しないでくださいね。体、大切にして」
「うん」
「また、家にも帰りますから」
とってつけた言葉に、彼は笑う。
「無理しなくていいよ」
「……してません、よ」
「そう?」
笑を含んだ声。
いや、きっと彼は困らない。少なくとも、わたしにそれを悟らせない。
近くに控えた大きな戦いのことを思うと、少し不安になって。
つい兄に電話をしてしまった。
他に大切な人がたくさんできたのに、わたしはまだ彼に依存している。
大切な人たち。
守りたいもの。
それらを深く深く愛しているのに。
それなのに。
「じゃあね。日曜日、頑張って」
「はい」
「でも無理しないで。無事に帰っておいで」
「大丈夫ですよ」
…嫌いに、ならないでくださいね。
何百回と、何人もの人間に胸の内だけでつぶやいてきた言葉を、彼に向ける。
口には出さずに。
何があっても。
好きになってくれなくてもいいから。
嫌いにならないで。
それは、身勝手で消極的な思い。
でも、いつだってそう願わずにはいられなかった。
好きになってくれなくてもいいから、嫌いにならないでください。
親しい人が出来る度に、大切な人が出来る度に、祈る。
多分、それがわたしの処世術。
「大丈夫ですよ。ちゃんと、帰って来ます。信じてください」
そう、願わずにはいられなくて。
だから、電話を切るときはいつも不安になる。
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