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「花持たぬ頃」
昔…というほどの歳でもないけれど。
今の自分からしてみたら、『昔の自分』を思い出す。
中学生の頃、ふいに男の子が優しくなった時期があった。
その頃の自分の内面にそう変化があったとは思えないが。外見は多分、手足が伸びて、顔立ちが少し大人びたのかもしれない。
そんな男の子たちに好きだと言われたことが、何度かあった。
わたしはそれを、箱を右から左にうつすかのように。流れ作業のように、断っていった。
ごめんなさい。今は誰とも付き合う気がありません。
マニュアルが存在しているかのように、いつも同じ言葉。
彼らが言うその言葉は、
勘違いと、誤解と、思い込みからきているものと、わたしは決め付けていたのだ。
それに…
……彼らが好きだというわたしを、わたしは全然好きではなかった。
●
目を覚ます。
目覚まし時計が鳴った記憶は、ない。
腕を持ち上げて、腕時計を見た。夜中に目が覚めてもすぐ時間が気になるので、腕時計はいつもしたまま寝ているのだ。
目覚ましが鳴る、1時間程前。
…いいや、起きちゃえ。
華呼は勢いよくベッドから起き上がる。着替えて、本でも読んでいよう。それとも、いつもより早く出て、散歩でもして行こうか。
着替えながら、無意識に息をつく。
ここ数日、何をしていても頭の中にある懸念事項。いつも意識がそこにいく。
どうしよう。
それを思うたびに、もうその言葉を胸中で何百回と繰り返した。
芹香先輩や蒼刃くんにも相談した。でも、最終的には自分で結論を出すしかないことは分かっている。
ふと昔を、思い出す。
昔といっても、ほんの1、2年前の話だ。でも、あの頃から意識の変わった自分からすれば、恐ろしく昔に感じる。
あの、箱を右から左へ移す流れ作業。
今思えばあれは、一種の逃げだったのではないかと思う。
その、真摯な気持ちに向き合うのが怖くて。自分に向けられるその感情が怖くて。理由をつけて避けたのではないだろうか。
人の心を思いやれなかった時代。
華呼は沈痛に目を閉じた。昔の自分は、今の自分を時々傷つける。
悪いこと、したな。
今ではそう思う。あのようなことは、今となってはもう出来ないだろう。
あの頃は、自分のことが好きでなかった。
だから、大事に出来なかった。
自分も、それにかかわる人も。
では、今は?
……今の自分は、少しでも好きでいられているのだろうか。
少なくとも、今の自分にかかわってくれている人達のことは、大好きだと言えるが。
言えるのだが。
息をつく。
鏡を覗いて、髪を直す。
その中の表情は、ひどく弱気な顔をしていた。
ぐっと目に力を込めて、表情を引き締める。
…だって、逃げませんからねっ。
そう自分に言い聞かせて。
少なくとも、今の自分が好きな人たちとは、まっすぐ向き合えるように。
そういう自分を、少しでも、好きになれるように。
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